前々から気になっていたのが、ロシアの第五世代戦闘機PAK-FAのエンジンであります。
当初、PAK-FAの試作機にはAL-31F系統を大幅に改良したAL-41F1A(または製品117S、AL-41F117とも)を搭載するとされていました。

同エンジンは最大推力142kNを発揮する強力なエンジンで、2011年から調達が始まるSu-35Sに搭載されています。
ところが、PAK-FA初号機(T50-1)の初飛行後、AL-41F1Aのメーカであるサトゥルンが以下のように述べたことで、事情がやや変わりました。
「第五世代戦闘機は新型エンジンで初飛行」(RIA Novosti)記事の要点は、
★PAK-FAの初飛行に先立つ1月21日、PAK-FA用「新型エンジン」が初の空中運転試験に成功した(テストベッドはリペツクのSu-27M)
★新型エンジンが充分な空中運転の試験を経たのち、PAK-FAを「新型エンジン」で飛ばすことが決定された
ということです。
普通に読めば、PAK-FAに搭載されているのは、AL-41F1Aでないと読めます。
また、サトゥルンのPAK-FA用エンジン担当者であるイリヤ・フョードロフ氏自身も、
「PAK-FAに搭載されているエンジンはSu-35に積まれているエンジン(つまりAlL-41F1A)の改良型ではない」と述べているので、少なくともAl-41F1A(もしくはその改良型)以外が搭載されているのは確かなようです。
では、PAK-FAはすでに実用型のエンジンを搭載していると考えていいのだろうか?
どうも違うんじゃないか、というのが今回の記事なのです。
筆者がどうも最初から引っかかっていたのは、①「新型エンジン」の名前が出てこないことと、②貴重な新型戦闘機の試作機をわずか一週間前に運転試験したばかりのエンジンで飛ばすという乱暴さ、の二点です。
そこでもう少し情報を追ってみると、以下の二つの記事が見つかりました。
①Moscow Defense Brief, 2010 #1
PAK-FA計画の今後の課題の一つに「次世代エンジン」を挙げ、現在の試作初号機が搭載しているのは
"deeply upgraded forth-generation engines"であるとしています。T50-1の搭載エンジンがAL-41F1Aの大規模改良があることを示唆する表現ですが、やはり具体名は出てきません。
ただし、同記事では、「現在のエンジンでも必要な推力は出せており、超音速巡航も可能」としているため、ここでいう"deeply upgraded"というのも生半可な改良でないことは確かなようです。少なくとも、最大推力150kN台を達成している必要があるでしょう。
なお、記事に署名のあるコンスタンティン・マキエンコ氏は下院国防委員会専門家会議の委員も務めている人物。PAK-FA初飛行前に
かなり詳しい情報を『モスコフスキー・コムソモーレッツ』紙に語っており、PAK-FA計画には一定の情報アクセスを持っていると思われます。
②『赤い星』2010年3月12日オボロンプロム(サリュートの親会社)のアンドレイ・レウス社長が、PAK-FA用エンジンの「第二段階の競争入札」は「国防省の決定に依存」しており、「統一エンジン会社(ODK)とサリュートが共同で行う」との考えを示しています。なお、ODKとは、サリュートが参加している国営の統一エンジン製造事業体であります。
この発言を素直に受け取れば、実用型のPAK-FAに積まれるエンジンは
「これから作るところ」と考えられましょう。
同記事中で、サトゥルンのバシューカ副社長が、「第二段階の競争入札にはサトゥルンとサリュート、ウファ・モーター工場(UMPO)が参加する」と述べていることからしても、「これから作る」のは明らかであります(サトゥルンとサリュートが競合するのか協力するのかで、両者の発言にはブレがありますが)。
また、この記事の後半には、「PAK-FAが117Sを搭載して飛んだ」とあrますが、これまで紹介してきたサトゥルン側の発言を顧みれば、『赤い星』編集部の間違いであると思われます。
以上の情報を整理してみましょう。
②から読み取れることは、
★PAK-FA初号機が積んでいるエンジン(=これまで「新型エンジン」と呼ばれていたもの)は、何らかの計画の「第一段階」に過ぎない
★「第二段階」はこれから作るところ
★しかも開発メーカーの競争入札はまだこれから
の三点です。
いずれもメーカーの中の人が語っていることなので、信憑性は高いと思われます。
一方、①によれば、「第一段階」=「新型エンジン」は、やっぱりAL-41F1A/117Sの大規模改良型であったということになります。
この点はRIA Novostiでのフョードロフ氏の発言と矛盾しますが、同氏が何を以て「改良型ではない」と言っているのか、あるいはマキエンコ氏が何を以て「deeply upgraded"と言っているのかが明らかでないため、何とも言えません。
どちらか(特にマキエンコ氏)が間違っている可能性もあるし、両者が同じものを別の基準で解釈している可能性もあります。
したがって、確実に言えることは、
「実用型PAK-FA用のエンジンはまだ存在していない。ただし、いま何を積んでいるかは不明」
となりましょう。
個人的な感想としては、やっぱちT50-1が積んでいるのはAL-41F1Aの魔改造バージョンで、実用型には、より無理なく同じ性能を達成できるエンジンをつくるんじゃないかな、と思っています。
しかし、もしこれから開発に着手するとなると、PAK-FAの就役にはまだ意外と時間が掛かるのかもしれません。
★付記
この件について、更なる情報をお持ちの方のコメントを歓迎いたします。